第235回:言葉の力(2005/03/08)


「君さ、すごくかわいいよ。きっと大人になったらモデルになれる。絶対に治るから。」
「2週間の遠征中、他チームの状況などをノートにメモして教えてくれませんか。
 秘密のスカウトとして活躍してください。」

この2つは共に闘病中の子供を励したときの言葉です。
(上が北海道日本ハムの新庄選手、下が同じく北海道日本ハムのヒルマン監督。)

【ソース】
上−http://www.nikkan-kyusyu.com/cgi-bin/vi/view.cgi?id=1089562411&jl=pb
   (記事の下の方)
下−http://www.nikkansports.com/ns/baseball/p-bb-tp0-050308-0001.html

このニュースを読んだ時、この2人の言葉の選び方って凄いなあと関心しました。
不安や悲しみに今直ぐ押し潰されてもおかしくない子供達に対して、
「頑張れ」「負けるな」とか安易な言葉で励ますのではなく、
さり気なく夢と希望と生きる目的を与える言葉を選んで励ましているからです。

通常、野球選手が闘病中の子供を慰問して励ます際、
ホームランバッターなら「君の為にホームラン打つから君も頑張れ」
中日の川相なら「君の為にバントするから君も頑張れ」
などの言葉が漫画のネタになるほど定番になっています。
実際、上のソースを読むと新庄選手はホームラン打つと子供に約束していますし。

これも一つの励まし方として悪いとは思いませんが、
選手自身が頑張っている姿を見て君も頑張れと言っているだけのことであり、
飽くまで闘病中の子供は受動的な状態なんですよね。
言葉を鵜呑みにするならば、ホームラン打たなきゃバントしなきゃ子供は頑張れない訳です。
それでもまだ試合に出てれば救いようがあるものの、
スタメン落ちたり怪我したりバントする局面じゃなかったりする可能性だってあります。

それに比べて、冒頭で挙げた2つの励ましは子供が能動的な状態になります。
モデルになる夢をみる、日本ハムの為に情報収集する、
これらは目標に向かって自分自身が頑張らなければいけないことです。
(前者はちょっとニュアンスが微妙かもしれませんが)
同じ約束でも、ホームラン打つのは選手側が守らなければいけないもので、
他チームの情報収集は闘病中の子供が守らなければいけないもの、という違いがあります。

なかなか上手く言葉が出てこないんですけど、
闘病中の自分にもできることはあるんだと夢と希望と目標を持たせることで
自分の存在意義を明確にしてあげる、と言うんでしょうか、
この2人は闘病中の子供達が能動的に頑張れるような言葉で励ましていると思います。
生きる力を与えるというのはこういうことなのではないでしょうか。
嬉しかっただろうなあ、この子供達。

まあ確かに本音と建前はあるものだと言われたらそれまでなんですけど、
(可愛いだけでモデルにはなれないし、子供のメモが役に立つならスコアラーの商売上がったり)
それでもこんな言葉が自然に出てくるというのは本当に凄いと思います。

というか、ヒルマン監督に惚れなおしました。
こんなこと言われたら有無を言わず秘密のスカウトとして働きますよ。


<BGM>
RED ZONE (Tatsh & NAOKI)
[ beatmania IIDX 11 IIDX RED ORIGINAL SOUNDTRACK / KONAMI ]